エッセイ「ギュッ!な物語」

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ギュッ!な物語 Hugしたくなったその瞬間

Story. 004 物語か。現実か。

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 マーガレット・ドラブルの『再会』という小説をご存じですか。そもそも、作者ドラブル自身が日本の読み手にはなじみの薄い存在かもしれません。劇団で女優としても活躍したケンブリッジ大学出身の秀才です。

 『再会』という小説は、愛し合いながらもある理由から別れなければならなかった二人が、懐かしのカフェで再会する物語です。
 ある日彼女は、彼に別れを告げたカフェの前を偶然通りかかります。そうして目に見えない力によって引きよせられるように店内へと入って行きます。
 店に入り壁に掛かっているカレンダーを見つめた瞬間、彼女の小さな胸に過去が一気に引き寄せられる。あの日、あのとき、いつ別れ話を切り出そうかと悩みながら見つめていたカレンダーを思い浮かべながら。
 彼女は楽しかった想い出を胸に、以前と同じようにテーブルに腰を下ろします。すると何とそこへ、さよならを告げたはずの彼が・・・

 別れた後も、募る想いがふたりの会話のやりとりから静かにあふれ出します。
甘いだけではない、切ないだけでもない。大人の愛がそこにはあふれています。
 「ほんとうに、あなたに電話を掛けないのは、大変な努力だったのよ。電話のそばに座って、受話器を取ってあなたのさいしょのほうの番号を回したところでやめちゃ、あきらめるの。置いてみると受話器が汗をかいていたわ」


 作者ドラブルの姉はやはり小説家で、名はスザン・バイアット。バイアットは妹ドラブルの作品を「あまりにも現実から題材を取りすぎる」とちくりと批判していますが、果たして、『再会』はドラブル本人の体験談なのでしょうか。

 「あなたの気持ちはわたしの気持ちそのものなんだ、あなたもわたしと同じように弱い人で、自分の抱え込んでいる痛みに耐えているんだわ」
 作者ドラブルは、そう『再会』のヒロインに語らせているのです。
 さて、どこまでが物語で、どこからが現実なのでしょうか。もしかするとすべてがドラブルの体験談かもしれない、そう読み手に思わせる力のある作品です。
 読み進めていくうちに、自ら『再会』の主人公になっていく。そんな筆を走らせたドラブルをギュッと抱きしめたくなります。

平野雅彦プロフィール

図書館や博物館の立ち上げ、ブックアートギャラリーの企画・運営、出版、企業のキャンペーンやキャラクターデザイン、ブランディングなどの企画に参画。講座・講演、各種審査員多数。テレビやラジオのコメンテーター、本の紹介番組などにレギュラー出演。日本新聞協会賞、ACC賞など広告賞多数。国立大学法人静岡大学人文学部非常勤講師。

http://www.hirano-
masahiko.com/

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